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【データ×天気予報・婚活・ダイエット】日常生活のデータ駆動型意思決定とその限界とは?

最近のビジネスや経営で重要なキーワードの一つに、「データ駆動型意思決定」という言葉があります。経験や勘に頼るのではなく、データに基づき意思決定を行うことを指し、変化の激しい環境下で正しい判断を下すためには欠かせないとされています。そういうとなんだかとても大層なことのように聞こえますが、実は私たちが普段の生活の中でも当たり前にやっていることだったりします。

大層に聞こえるけど小学生でもやっていること

たとえば雨の多いこの季節、私たちの行動を決めるのに欠かせないのが天気予報です。傘を持って出るか持たずに出るか、どの靴を履くか、待ち合わせの場所を屋外にするか屋内にするか、洗濯物を外に干すか部屋干しにするか、などなど、多くの人による無数の意思決定が天気予報というデータに基づいて毎日行われています。

データ駆動型意思決定の例として、インターネット広告の世界では「UberEatsのようなフードデリバリーサービスでは、雨が降ると広告のコンバージョンレート(広告経由でサービスを利用する人の割合)が高くなるので、天気予報で雨になりそうな時は入札価格を上げて広告を大量に出稿する」といったことが行われています。これは本質的に「雨が降るとぬれて風邪をひくから、天気予報で雨になりそうな時は傘を持って出かける」という意思決定と同じことです。つまり、私たちは、子供の頃からそうとは意識せずデータ駆動型意思決定を行ってきたのです。

日常生活の中に増殖するデータ×●●

私たちは日々生きていく上で、様々な選択をしています。「最終的にデータが決定のきっかけになる選択」が、生活における「データ駆動型意思決定」であると定義してみましょう。

人は成長するにつれて日常生活の中で選択の機会が増えてきます。それに伴い、データ駆動型意思決定が下される場面も増えてきます。たとえばコンビニで売っている食品の成分表示も、データ駆動型意思決定にかかわっています。「タンパク質10g」「糖質3g」「食物繊維半日分」といった表示がパッケージに大きく印刷されているのは、それを見て購入を決める人が一定数いるからです。

カロリーも購入の意思決定に直結します。ちょっと小腹が空いて夜食を買いにコンビニに行き、からあげ弁当を手にとってみたものの、800kcalを超えるカロリー表示を見てそっと棚に戻し、180kcalの鮭おにぎりを買った、という経験がある人は多いのではないでしょうか。

洋服を買う時、どんなに色やデザインが気に入っても、肌触りが気になったり、自宅で洗濯機で洗えるかどうかが気になるという人は、縫い付けられた品質表示タグにある素材や洗濯時の取り扱い方法を見て買うか買わないかの意思決定をします。値札タグに「30% オフ」のシールが貼ってあると、定価との差額を計算して「これならお得」と買うことを決める人や、逆に「もう少し待てばもっと安くなるはず」と今買うのをやめる人もいます。どこに着目するかは人それぞれですが、タグに書かれたデータによって買うか、買わないかという判断をしている点で、これもデータ駆動型意思決定の一例です。

スマートフォンの普及でデータ駆動型意思決定が日常的に取り入れられるようになったのが、移動手段の選択です。今でこそ大雨の日に自宅を出る前に電車の運行状況を検索して遅延区間を迂回したり、カーナビやGoogle Mapに表示される渋滞情報を見て目的地までのルートを選ぶといったことを、私たちは日常当たり前に行っています。しかし、15年ほど前までは駅に行かなくては電車の運行状況はわからなかったし、渋滞情報は30分に1回ラジオで流れる交通情報に頼るしかなかったのです。

データを散々集めて、データ駆動型意思決定がされないこともある

一方で、私たちが生きていく上で、データ駆動型意思決定では決められないこともたくさんあります。その最たるものが結婚相手を探す「婚活」でしょう。婚活サイトの登録時は、自分のデータと相手に求める条件を細かく入力しますが、実際にそれだけで相手を選ぼうとすると間違いなく詰みます。

よくある笑い話ですが、結婚相手の条件として「年収は500万円以上」「年齢は30代前半まで」「身長175センチ以上」「学歴は大卒以上」「地元が近い」といったデータをもとに異性を選ぼうとすると、候補者がいなくなくなるのです。「どれもそれほど贅沢な条件ではない、普通の相手でいいのに」と嘆いても、複数ある条件をAndで結べば積集合のサイズはどんどん小さくなっていきます。そして稀に出現する「全ての条件に当てはまるお相手」は早々に既婚者になってしまい婚活市場からは去っていくのが現実です。

では実際に婚活中の人が何を重視するかといえば、「価値観が合う」「優しい」「ルックスが好み」といった、データではあらわせない主観的な理由だったりします。「ひと目みた時に赤い糸が見えた」という、データも何もかもすっ飛ばした意思決定もありますが、多くの人は相手を探すためにさまざまなデータを参考にしつつも、最後の一押しはデータではなく自分の主観で決めています。

その意味では、就活も婚活と似ているかもしれません。業種、職種、業績、社員数、初任給、勤務地、平均年収、資本金、株価などのデータを集めて会社研究しても、完全に自分の理想の条件にマッチする会社はほとんどありません。最終的に入社するかどうかの決め手になるのは、条件が多少合わなくても「経営者が尊敬できる」「一緒に働きたいと思える先輩がいる」「自分が成長できそう」といった極めてウェットな理由になりがちです。

「家を買う時」も同様で、間取り、駅近、価格、周辺施設といった理想の条件を挙げていくとどんどん候補の物件は減っていきます。そして、もし理想通りの条件の物件が見つかっても、それだけで購入を決断できる人は少ないのではないでしょうか。最終的に購入するかどうかを決めるのは「この家に住んで幸せに暮らしている自分や家族の姿が想像できるか」という気持ちだったりします。

「人生にとって重要じゃない意思決定はデータに任せよう」という選択

消費者行動研究の分野で「関与」という概念があります。厳密な定義には諸説ありますが、ざっくりまとめると「消費者個人がどの程度製品やサービス、あるいはそれを使用する状況に対して思い入れがあり、大切だと感じているか」という度合いを表す概念です。関与が高い製品やサービスを選ぶ時、消費者は情報収集や比較検討に労力をかけますが、逆に、関与が低い製品やサービスに対してはそれほど労力をかけません。

「関与」を少し拡張して、人生におけるさまざまなことがらに対する人の思い入れや大切さだとすれば、データ駆動型意思決定ができるのは関与の低いことがらであり、データ駆動型意思決定では決められないのは関与の高いことがらであると言えるように思います。言い換えると、「自分の人生にとって重要な決定をする時、データは必要だが決断はデータに任せられない」と多くの人が思っており、実際にそうしているということです。

人生を左右するような重要な意思決定はそうそうあるものではありません。考える力はここぞという時にとっておき、「人生にとって重要ではない意思決定はデータに任せる」というメソッドはありではないでしょうか。日々の暮らしを動かすための決定はデータ駆動型意思決定に任せることで、人生より省エネモードで楽に生きていけそうです。

<参考文献>
『マーケティングの力 最重要概念・理論枠組み集』(恩蔵直人・坂下玄哲編)


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