生活の途中に「データ」を挟むと"できること"がどんどん増える
高齢化が進み、離れた場所に住む親の見守りをどうするか、頭を悩ませている人は多いと思います。1年ほど前にダイヤモンドオンラインでライターの和田亜希子さんが執筆された「親の見守りをITで円満解決」という記事はとても話題になりました。スマートホーム、IoTというとハードルが高く思えますが、すでにとても身近なものになっています。そして、見守りだけではなく、生活のさまざまな場面を便利にしてくれるのです。
生活を侵襲しないでデータを取るニーズ
インターネットを活用した遠隔見守りサービスの先駆けとなったのが、2001年に象印マホービンが開始した「みまもりほっとライン」でした。電気ポットで「お湯を沸かす」「お茶を淹れる」という日常の動作をデータとして取得し、定期的に送信します。長時間操作履歴がなければ「何かあったのかも」という異常が察知できます。
このサービスが画期的だったのは、見守る側、見守られる側どちらも新たに何かアクションする必要が無く、生活の中に溶け込んでいたことです。当時は遠隔見守りといえばWebカメラを使った実証実験があちこちで行われていました。しかし「カメラで常時撮られている」ということが、見守られる親の側からは「いつも監視されているようで嫌」見守る子供の方も「親のプライバシーに過度に干渉したくない」といった意見が多く、なかなか実用化には至りませんでした。その点、みまもりホットラインは「ポットの動作」という機械の動きのデータをもとに人の生活動作を推定することで、過度に生活の中に入り込むことなくちょうど良い距離感で「見守れる」ことが受け入れられた大きな要因でした。だからこそ、20年以上も多くの人に利用され続けるサービスなのだと思います。
データの取得で「見える」が広がる
それから20年以上が経ち、生活の中に溶け込んで、データを取得する技術はどんどん身近になっています。身近になった最も大きな要因は、さまざまなセンサーが小型化し、価格も安くなったこと、そしてそれらがクラウドにつながりデータを外から取得できるようになったことです。
例えばGPSセンサーであれば、2000年ごろは数万円したものが、今では1000円前後で位置情報を取得し記録するGPSロケーターが簡単に買えます。5000円もあれば、通信機能つきのGPS端末が買えますし、月数百円でクラウドサービスを利用してリアルタイムで位置情報を把握できます。子供やペットが今どこにいるのかがいつでもわかるので、探す時間や心配する心の負担が減ります。
人感センサーも身近になったものの一つでしょう。玄関やトイレなど、人がいる時だけ点灯すればよい照明には、もともと組み込まれていることが多いですが、人感センサー単体でも購入しやすくなったことで、家の中外の任意の場所に設置できるようになりました。すると、特定の場所に人がいることがわかります。旅行などに出かけていないはずなのにトイレに終日人がいない状態が続いていれば、何かおかしなことが起こっているに違いないと気付けます。
温湿度計を室内に置いている家は多いと思いますが、温湿度センサーを付けることで外からも室内の温湿度がわかります。高齢者は温度感覚が鈍くなって高温に気付かず熱中症になりやすいといいますが、離れた場所で室温が高くなっていることに気づいたら、「エアコンを使うように」と電話やメッセージで知らせることができます。
20年前には嫌がられていたカメラも、小型化して目立たなくなったこと、さらにスマートフォンのビデオ通話の普及で、「離れたところに動画を送る」ということに対する抵抗がかなり減っています。さらに最近は「モーション検知」技術により、動くものがあった時に短時間だけ撮影する、という技術で、何かあった時にだけ動画を記録することが容易になりました。
センサーのデータを取得することで、自分の周囲だけでなく、離れた場所のことも見えるようになります。見える範囲が広がることで、これまで気付かなかったことに気づけるようになります。
離れた場所から家につながる
もう一つ、この20年の大きな変化が、スマートフォンやスマートスピーカーを利用して家の中にあるものをリモート操作できるようになったことです。本体そのものがネット接続する「インターネット家電」だけではなく、エアコンや照明などリモコンを使って操作する家電製品、カーテンや鍵などの物理操作も可能にするSwitchBotのような製品が個人にも手が届く価格で導入できるようになりました。
センサーとリモート操作を組み合わせることで、離れた場所にいながら家の中の様子を知り、家の中のものを操作することが可能になります。先述の記事中では、
・玄関に人が近づくと動体検知で録画を開始すると同時に自分のスマートフォンに通知
・インターフォンが鳴ったら自分のスマートフォンで応答
・宅配便など玄関を開ける必要があるものなら、スマートフォンから解錠して荷物を部屋に入れてもらう
・ドアが閉まるのを確認してスマートフォンで施錠
という方法で、家にいなくても親の代わりに荷物の受け取りを実現していました。
GPS、スマートロック、人感センサーを組み合わせることで、親が留守時にも子供に家の鍵を持たせず鍵の開け閉めをすることもできるようになります。GPSセンサーで子供が自宅に近づいたら親のスマートフォンに通知がくるようにしておき、玄関前に来たことが確認できたらスマートロックを解錠するのです。家の中に設置した人感センサーで子供が家に入ったことがわかったら、再度施錠すれば鍵の閉め忘れも防げます。在宅中ならあたりまえにできる「子供が帰ってきたら鍵をあける」ということが、留守中にも同じようにできるようになるのです。
ちなみにスマートロックのもう一つの利点は、鍵の状態確認と操作がいつでもできることです。「もしかして玄関の鍵、開けっぱなしかも」と思ってやきもきする必要がなくなることは、精神衛生上とてもメリットが大きいものです。
生活の中のデータは人間のCapabilityを拡大する。
スマートホームといって多くの人がイメージするのが、「おはよう」と声をかけるとカーテンが開き、テレビとエアコンが着いてコーヒーメーカーが作動する、夜になったら照度センサーでカーテンが自動で閉まり照明が点灯する、といった、自動化された世界ではないでしょうか。こうした技術も簡単に入手可能なセンサーとリモートコントローラーとスマートスピーカーで全て実現可能です。
外から家の様子を知り家の中のさまざまなものを操作することは、センサーとデータによって人間の知覚と手の届く範囲を広げるということだといえるでしょう。そして自動化は、人間が行う知覚、判断、操作を時間差で行うことだともいえます。これらを一言で言えば、人間のcapabilityを拡張することだといってもいいかでしょう。
ひと昔前なら、家の外から中にいる人の様子を知りたい、かけ忘れた玄関の鍵を外出先から閉めたい、と思っても、「マンガの中ならドラえもんが何とかしてくれるのに」と諦めるしかありませんでした。でも今は、センサーとネットワークとクラウドで集めたデータを使って誰にでも実現できます。
IoTというと効率化や最適化の側面に目が行きがちですが、日常生活の中のIoTは「できなかったことをできるようにしてくれる」ドラえもんのひみつどうぐを誰もが手にいれる手段なのかもしれません。そのための鍵は、生活の中にさりげなく挟み込まれるセンサーと、そこから取得するデータなのです。データを活用することで、物事の「最適化」や「効率化」にとどまらず「最大化」できる可能性も広がっていくのではないでしょうか。
関連情報
親の見守りをITで円満解決!工事なしで「スマートな玄関・部屋」に変える方法
https://diamond.jp/ud/authors/62f1dedf776561b9c8010000
象印 みまもりホットライン
https://www.zojirushi.co.jp/syohin/pot_kettle/mimamori/
SwitchBot
https://www.switchbot.jp/