個人の位置情報公開を前提とした新しいサービスを考えてみた!
今年のゴールデンウィークは4月29日からスタート。ようやくマスク着用も義務ではなくなり、出入国規制もほぼ撤廃されて、コロナ禍前のゴールデンウィークの風景が戻ってきそうです。
2020年以来、緊急事態宣言やまん延防止重点措置が発令されたり解除されたりするたびに、繁華街や観光地の人出がニュースになってきました。その際に街頭の映像と一緒にしばしば取り上げられたのが、「人流データ」です。
スマートフォンのアプリを利用して位置情報を収集する手法や、携帯電話の基地局が把握している端末の位置情報を集計する手法などやり方いくつかありますが、「昨年に比べて何パーセント人が増えた、減った」という数字が報じられることで、位置情報を利用する人流解析サービスの認知度はかなり上がったのではないかと思います。
■実は限られている位置情報の使い方
スマートフォンには必ずGPSセンサーやBluetoothが搭載されており、人の位置情報の取得はとても簡単になりました。とはいえ「取得した位置情報が何に使われるのか」を考えてみると、地図、ナビゲーションなど「自分の位置や移動経路など位置そのものを知るためのサービス」や、タクシー配車、ポイ活など「自分の位置を知らせることが必要なサービス」を除けば、この3つの中のいずれかになるように思います。
1.過去のデータに基づく来訪者予測や混雑予測
2.災害時を想定した避難行動シミュレーション
3.店舗や商業施設の来店者計測・予測
これらのサービスで利用する位置情報は、取得する際に「誰の」位置情報であるかがわかるような、氏名や電話番号などの情報とは切り離されていますし、公表されたデータから特定の個人の位置が特定されないよう、匿名化や少数データの除去などの配慮がされています。
■位置情報とプライバシーと炎上
言うまでもなく、「Aさん」という特定の個人が今どこにいるか、という位置情報は極めてプライバシー性が高いものです。2011年頃に、この位置情報を不用意に扱って大炎上した「カレログ」というアプリを覚えている方もいるかもしれません。「カレシのスマホにアプリをインストールしておくと、サービスのウェブサイトから常時スマホの位置情報を把握できる」というAndroidアプリで、居場所をリアルタイムで監視することで浮気を防ぐ(スマホのバッテリー充電状況もリアルタイムで監視し、不都合な時に電源を切って「バッテリー切れてたから電話に出れなかった」という言い訳も封じる)という使い方が想定されていました。
建前としては当然、本人の同意がなくてはインストールできないのですが、「彼氏に内緒で利用」を勧めるような宣伝が行われていたり、アプリのアイコンがGPS管理ツールを偽装していたり画面上に動作アイコンが表示されないなどの「本人に動作していることが分からない」ような工夫がされていたりといったことで、スマホの持ち主の位置情報を本人に無断で(恋人とはいえ)他人に送る、プライバシーの侵害を助長するサービスとして大炎上したのです。(法的な観点としては、民事のプライバシー侵害の他に、端末の持ち主に無断でインストールすることが「不正指令電磁的記録供用罪」にあたるという論点もありますが、ここでは詳細には触れません)
本人に無断で特定個人の位置情報を取得することは論外ですが、例えば企業が社用スマホのGPS機能で社員の位置を取得することも、就業時間外に行えばプライバシー権の侵害となるという判例が出ています(「ロケーションハラスメント」という言葉もできています)。位置情報を誰に提供するのかを自分で決めることは、「「Data Privacy Day」は何を守るの?プライバシーとデータの保護の浅い歴史の話」でも紹介した「自己に関する情報をコントロールする権利」であり、尊重されなくてはいけません。
■自分の位置情報を公開することで何が可能になるのか
自分の位置情報を誰に提供するかは自分が決める、ということは、「自分の位置情報を常時共有する」という選択も考えられます。2022年9月にサービスを終了した位置共有アプリzenlyは、友人に常時位置情報を公開するアプリで、10代で熱烈に支持されていました。サービス終了の理由は親会社の事業方針の転換でしたが、ユーザー数自体は増え続けており、複数社から後継アプリが公開されています。
位置情報を常時共有することで待ち合わせがしやすくなる、SNSのようにいちいち写真やテキストをアップしなくても自分が今何をしているかをなんとなく共有できる、友達が近くにいて暇にしているのがわかるので声をかけやすい、といったことが支持されていた理由のようです。
「位置情報を共有することで声をかけやすくなる」という効果を利用すると新しいサービスが展開できそうです。例えば、アルバイトのマッチングサービスも、今は働きたい人がエリアや職種で絞って仕事を探していますが、位置情報共有機能をつけてお仕事募集フラグを立てておくと「急にシフトの穴が空いたから、今から1時間以内に来れる人に来てほしい!」という雇い主からオファーが入るようなサービスが考えられそうです。隙間時間にバイトしたい人と単発バイトを探している雇い主のマッチングサービスのタイミー(https://timee.co.jp/)が成長していますが、位置情報を共有すればさらにピンポイントでのマッチングが可能になりそうです。
■物理的な距離の近さで新たな関係が生まれる
「ちょっと近くまで来たから挨拶に寄りました」というのは昔からよくある営業手法ですが、コロナ禍のリモートワークではそれができませんでした。オンラインミーティングは、場所と時間を選ばないというメリットはありますが、時間を決めて約束しなくては話せないし、約束するためには理由が必要です。
位置情報が共有されていて近くにいるということがわかれば、他に理由がなくても話しかけるきっかけになります。たまたまそこで会話したことで、新しいアイデアが浮かんだり、新しい仕事につながったりという可能性が広がります。さらにいえば、会いたい人の位置情報が共有されていれば、そこに会いに行けばいいのです。YouTrust(https://lp.youtrust.jp/)のようなキャリアSNSに位置情報機能がついていれば、「この仕事を一緒にやってみたいAさんが今近くにいるから声をかけてみようか」という使い方もできそうです。
リモートとオンラインで仕事をすることが当たり前な時間を過ごしたことで、「会って話すこと」の価値に改めて気づいた人は多いのではないでしょうか。リアルタイムな位置情報の共有は、対面のコミュニケーションの機会を増やし、関係を広げる強力なツールになります。
■個人の位置情報公開が新たな価値を創出する
自ら進んで位置情報を公開する人が増えると、さらに可能性が広がります。例えば最近、駅の混雑状況をリアルタイムで把握するためにAIカメラ画像の解析が利用されていますが、花火大会などのイベント会場でそのような設備を設置することは困難です。
場内の数カ所に人がいて、スマホのビーコン機能を利用して半径数メートル以内にいる人の数をカウントし、位置情報と一緒に送信できれば、混雑状況をAIカメラよりも正確に、詳細に把握することができます。年に1回のイベントのために設備投資することなく、人が集まりすぎて危険な状況や、若干空いていて人が通りやすい場所を、リアルタイムに把握できるようになります。
位置情報を公開する人は、当然、多い方がいいので、参加してもらうためには報酬やゲーム的な要素が必要になります。他のプレイヤー(ビーコンで位置情報を発信している人)の場所をアプリで確認できて、なるべく他の人とは離れた場所に移動すると高得点が得られるような仕掛けがあれば、調査のカバレッジも広げられて一石二鳥かもしれません。
「自己に関する情報をコントロールする権利」を行使して、位置情報を共有したり公開する人が増えれば、新しいサービスや価値がたくさん生まれそうに思います。
参考情報
カレログ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%AD%E3%82%B0
10代のカリスマアプリ「ゼンリー」ユーザー数は過去最高なのに突然終了の理由
https://biz-journal.jp/2022/11/post_324116.html
ロケーションハラスメント 従業員の位置情報把握の留意点