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帰ってきたデータフュージョンはアドテクノロジーの救世主となるか

 サードパーティCookieの利用が困難となり、ターゲティング広告を配信する方法について模索が続いています。アドテクノロジーの役割は、IDベースで広告と人をマッチングすることから、その広告を必要とする属性を持ったグループを特定し、そのグループと広告をマッチングすることに変化せざるを得ません。そのための方法や技術はいくつか提案されていますが、一つの可能性を感じるのが「データフュージョン」です。

シングルソースデータの代替としてはじまったデータフュージョン

 データフュージョンとは、別々に取得した2つ以上のデータを融合して分析可能な新しいデータセットに加工する技術です。別々のサンプルで取得したデータをサンプルの類似度をもとに統合することで、データの完全性と精度を高めます。

 例えばある商品の認知、購買経験を調べたデータ(A)と、その商品の広告を見たことがあるか、その広告に対してどのくらい好きかを調べたデータ(B)があるとします。データ(A)とデータ(B)を、回答者の年齢や性別などの属性で結合して1つのデータに融合することで、広告の視聴経験や評価と商品の購買の関係を分析できるようになります。

▼データフュージョンの概念

 データフュージョンの概念は新しいものではなく、誕生は1990年代に遡ります。主にマーケティングの領域で、データを活用して広告やプロモーションの効果を分析したり、消費者を分類して購買行動との関連性を調べることが行われ始めました。分析のためには、同一対象者から、購買・広告接触・ライフスタイルなどの多面的情報を取得したシングルソースデータが必要となります。しかし一方で、多くの情報を取得するための調査は対象者の負担が大きく、分析可能な数のサンプルを取得するにはコストがかかるという問題がありました。数万人規模のパネル調査で、買い物データ(買ったものをバーコードでスキャンして記録する)と意識調査データを取得したシングルソースデータが販売されていましたが、非常に高額で気軽に利用できるものではありませんでした。

 そこで、企業内でマーケティング活動として実施されているデータを活用するための方法として、別々の対象者に対して、別の調査項目で実施されたデータを、個表レベルでサンプルの類似度をもとに結合して、擬似的なシングルソースデータを作成する技術の研究が進められました。この技術を当時はデータフュージョンと呼んでおり、データを結合するための統計的な手法が提案されていました。

Cookieが個人と行動を結びつける技術の主役に

 この状況を変えたのがインターネット広告とCookieでした。サードパーティCookieによって、ブラウザIDと紐づけて広告の閲覧履歴やアクションを含めたログとウェブサイトの閲覧履歴がサイトを横断して収集できれば、データフュージョンの必要なくシングルソースデータとして分析できます。アドテクノロジーはこのデータを基礎にして発展し、機械学習のモデルで個人をターゲットにした精度高い出稿を可能にしていました。

 2000年代以降もデータウェアハウス構築など、主にデータベース技術の分野で、データフュージョンの活用は進められており、機械学習を利用した自動的なデータマッピングなどの高度な融合が可能になりました。一方で、広告やマーケティングの分野ではデータフュージョンという言葉を聞くことは減っていました。

メディアバイイングのセオリーが昔に戻る

 サードパーティCookie規制によりインターネット上でもシングルソースデータが自由に取得できなくなり、誰に対してどのように広告を出稿するかを決める手法の模索が始まっています。今までのように広告と個人をダイレクトに紐づけることはできないことは前提に、ターゲティングを考える必要があります。

 例えば「幼児向けの教育サービス」の広告であれば、今までならば該当する年齢の子育てに関連するキーワードで検索したブラウザに、ピンポイントで広告を配信するということが行われていました。しかしこれからはもう少し粒度を下げて、「幼児向けの教育サービスを必要とする層」をグループとしてとらえ、そこにリーチするメディアと配信パターンを選択することが必要になります。ある意味、インターネット以前、マスメディア広告の時代のメディアバイイングのセオリーに戻ったとも言えます。

増えたデータを掛け合わせて出稿対象を特定

 昔と異なるのは、グループの特定に使えるデータの量と質です。インターネット以前であれば使えるのはせいぜい性別、年齢、家族構成、年収などのデモグラフィック属性で、しかも、対象者から聞き取る必要があるものでした。対して現在では、取得できるデータの種類が飛躍的に増えています。誰もがスマートフォンを持ち歩くようになり、情報収集も決済もスマホで行うようになり、位置情報、ウェブアクセス、サービス利用状況などの行動情報が、断片化されたデータとしてさまざまなサービスに共有されています。

 バラバラに取得したこれらのデータを掛け合わせることで、グループの特定精度を上げていくことができます。例えば先ほどの「幼児向け教育サービス」の例であれば、位置情報とYouTubeの利用状況をかけあわせて、「港区」で「YouTubeを昼間利用している」グループは、「世帯収入の比較的高い子育て世帯である」可能性が高いと推測できます。

 別々に取得した位置情報というデータとYouTubeの利用状況というデータを融合することで、新しい情報が取得できるのです。一度はマーケティングの世界から退場したデータフュージョンが、再び帰ってきました。

生成AIと機械学習がアドテクノロジーにデータフュージョンを持ち込む

「港区」「昼間」「YouTube」の組み合わせで「高所得な子育て世帯」につながるのは、マーケッターの知見によるところが大きいです。実際のところ何と何をフュージョンさせればどんな知見が得られるかを正しく見つけるためには、マーケットやテクノロジーの動向に加えてライフスタイルに関する膨大な知識の裏付けが必要で、連想ゲームに近いようなところがあります。

ここで新たな可能性を示すのが生成AIです。インターネット上の知識ベースを学習した生成AIは、広告を出稿したい対象を表現するいくつかの属性の組み合わせを提示することが可能です。実際のデータ融合には機械学習によるデータのパターン抽出とマッチングが活用できます。

サードパーティCookieが利用できなくなった後のアドテクノロジーは、IDベースで最適な広告を配信することが難しくなります。しかし、生成AIと機械学習によるデータフュージョンを取り入れることで、ターゲットの粒度は大きくなっても「届けて意味のある広告を配信する」という本来の目的は達成できそうです。そもそも、広告主が本当に求めているのは、「かけた広告費に対する効果の最大化」であり、個人を特定できるかできないかということは重要ではないでしょう。データフュージョンは、広告主の要望と生活者のプライバシー保護を両立させるための鍵となる技術となるかもしれません。

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